MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.32




Blues100撰-その6
「Buddy Guy/I Was Walking Through The Woods」

Buddy Guy/I Was Walking Through The Woods(MCA MVCM-22009)
Photograph参照
 

アルバム・タイトルは彼の看板曲でもある"First Time I Met The Blues"(オリジナルはこのアルバムにも参加しているルイジアナ出身のピアノ・ブル−ズマン、リトル・ブラザー・モンゴメリー)の一節だ。「オレが初めてブルーズに出会った時、オレは森の中を歩いているところだった。オマエ(ブルーズ)はオレの家にやってきて、オレにできる限りのひどいことをしたのさ。」というその"FirstTime...."は、私が最初に衝撃を受けたブルーズのひとつでもあり、74年にウエストロード・ブルーズバンドの初めてのレコーディングでカヴァーした記念すべき曲でもある。
何度もいろんなところで書いてきたが、この曲を初めて聴いたのはNHKが放映したドキュメント番組「シカゴ・ブルーズ」(製作はイギリスBBC-TV)を観た時だった。
雪を被ったシカゴの街を映し出すフィルムのバックで、氷に包まれた炎のようなこのスロー・ブルーズはまだ本当のブルーズを知らない私の心に真っ黒な"BLUES"の刻印を押してフェイド・アウトしていった。そのフィルムには他にもマディ・ウォーターズ、ジュニア・ウエルズ、J.B.ハットーなどが登場するのだが、たった1回きりのその放映で(もちろんビデオなどなかった)かろうじて名前を記憶に留めることができたのはバディ・ガイとマディ・ウォーターズだけだった。そして、そのふたりの名前を頼りにブルーズのレコードを探しまくり、気がついたら出ることのできないブルーズの底なし沼に浸かっていた自分がいた。
このアルバムは、バディが1960年から67年にかけてシカゴのチェス・レコードに在籍した61年から64年に録音したシングルを集めたものだ。これはシカゴのゲットーのクラブからなんとか少しでも上へ這い上がろうとしていた、24才から31才の若き日のバディのブルーズの記録でもある。実はこのチェス時代、バディはチェスのスタジオ・ミュージシャンとして起用されることが多く、ソロ・ミュージシャンとして売り出すためにチェスは力を入れていなかった。実際、映画"Lightning In A Bottle"でもわかるようにバディはマディのデルタ・ブルーズ"I Just Can't Be Satisfied"からジミ・ヘンの"Voodoo Chile"まで弾きこなすことができるから、チェスにすればスタジオにもってこいのギタリストだったのだろう。しかし、彼はスタジオ・ミュージシャンになるつもりなどなく、この7年に渡るチェス時代はポツポツとシングルを出しながら陽の目を見るチャンスを窺う苦悩の日々だった。しかし、このシングルを集めたアルバムには、攻撃的で、無骨ながら若いバディのリアルなブルーズが宿っている。
1曲目"Watch Yourself"は61年の録音。61年と言えばすでにソウル・ミュージックの花が咲き始めた頃であり、ジェイムズ・ブラウンのファンク・ミュージックやダンスが若い黒人層に流行り始めた頃だ。この曲のファンキー・テイストも明らかにそういった時代の影響から生まれたものだろう。いま聴くとサウンドやビートがすごく「いなたい」が、バディは「かっこいいだろう」と言わんばかりの演奏をしている。この「いなたかっこ良さ」が私は好きだ。CDのボーナス・トラックとして収録されている"Slop Around"にもその「いなたかっこ良さ」がある。
このアルバムの特色は素晴らしいスロー・ブルーズがいくつも入っていることだ。
"First Time I Met The Blues""Stone Crazy""I Got A Strange Feeling""My Time After A While""Ten Years Ago"など、どれもアグレッシヴで、テンションの高い演奏だ。そして、どこか常軌を外すようなクレイジーなムード、それがバディ・ガイのいまも変らぬ個性だ。今風に言うなら「キレる」感じだ。ギターはこの時代の先端をいくB.B.キング・マナーのスクウィ−ズ・ギター・スタイルだが、B.B.のようにスムーズではなく、つっかかり、ひきつっている。曲によってはギターのアームを多用したアイク・ターナー風のトレモロ・サウンドも披露しているが、それがまた鋭角的でかっこいい。
60年代初頭、時代的にはチェスのドル箱、チャック・ベリーがロックンロールでバカ売れし、マディなどのトラッドなシカゴ・ブルーズはやや衰退し、チェスもドゥワップやR&Bへ力を入れていく流れだ。ブルーズではB.B.キング・スタイルが主流になっていくが、B.B.自身もまだ全国区にはなっておらず、チャック・ベリーのように白人層にも売れるまでには至っていない。そんな中、バディ、オーティス・ラッシュ、マジック・サム、ジュニア・ウェルズといった同年代の若いシカゴブルーズマンたちは、サウスサイドやウエストサイドのクラブで激しいブルーズを毎夜演奏していた。これはそういう時代のアルバムだ。
今年(2005年)野音のブルーズ・カーニバルで約3年ぶりのバディを観た。彼はもう70才になる。だが、彼のパワフルな、そしてアグレッシヴなプレイはこのアルバムの頃と少しも変らなかった。しかし、たったひとつ私が不満だったのは、ショーマンを意識し過ぎて自分の内面へのアプローチが少なくなってしまっていることだ。
例えば、どの曲も途中までしか歌わず、ギター・ソロを延々とやり、それが終るとすぐ次の曲に移っていく。1曲もまともに最後まで歌った曲はなかったはずだ。ギターが彼の売り物のひとつであることは充分わかっているし、そのギターで客のテンションが上がることも知っている。しかし、歌をまともに歌わないというのはあまりに乱暴なエンターテナーではないか。ステージを観ながら、私はジミ・ヘンの"Voodoo Chile"よりもこのアルバムに収録されているような素晴らしいブルーズ、つまりバディ自身のディープなブルーズが聴きたいと何度も心で呟いた。
このブルーズ100撰でまた他のバディ・ガイのアルバムを登場させると思いますが、まずこのアルバムをお薦めします。05/6/29記

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