MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.33




Blues 100撰-その7「Slim Harpo/SINGS "Raining In My Heart"」
Slim Harpo/SINGS "Raining In My Heart (Universal Music HIPD-40135)
Photograph参照
 

昔、夏の暑い日に「暑い時には熱い茶を飲め」という先人の教えに従い、熱いハウリン・ウルフを聴いて"Spoo〜nful"なんて歌っていた。すると、一緒にいた女性に「ちょっとこれ暑い苦しいから他のにしてくれない?」と言われた。その時すぐさま「偉大なウルフに向って貴様何を言うんだ!!」と、ビンタの2.3発もくらわしてやればよかったのだが、そこはそれ・・ホレた弱味というか、むかつく気持ちをぐっと抑え寛大になり、私は「いいよ」と言ったのだった。しかし、そう言ったものの『暑苦しくないブルーズ』『納涼的なブルーズ』はなかなか見つからなく、‘ムーン・グロウズ’などの50.60年代の甘いコーラス・グループのコンピなんぞかけて急場をしのいだ想い出がある。結局、その女性とはしばらくして破局を迎えたのだが、それ以降夏になると『納涼的なブルーズ』を心のどこかで探すようになった。しかし、現時点での結論では「芯から涼しいブルーズはない」だ。なぜなら、ブルーズに使われているメロディ、コード、リズム自体が涼しさとは距離があり、いかにサウンドや歌詞を工夫しょうが、発声や奏法を変えようがボサノバ、ハワイアンのような涼味を求めるのはかなり困難だと思われる。しかも、ブルーズに内在する精神の「熱」が一般ポピュラー・ミュージックの中でも群を抜いて高く、もし「芯から涼しいブルーズ」を求めるとなると、ブルーズの根幹自体が壊れブルーズとは呼べないものになってしまうはずだ。そこで、愛する人に毛嫌いされないために、かろうじて『納涼的なブルーズ』の一枚として私がお薦めするのがこのアルバムだ。
スリム・ハーポ(本名ジェイムズ・ムーア)は50年代の終りくらいから70年代の初めまで南部ルイジアナのエクセロ・レコードに独特なブルーズを吹き込み、ヒットを飛ばしたルイジアナ・ブルーズマンの筆頭株だ。これはそのエクセロ盤の再発CD盤。実はこのアルバムの7曲目"I'M A KING BEE"を私は中学3年の頃、ローリング・ストーンズのカヴァーで聴いていた。もちろん、このハ−ポのオリジナルを知るのはそれから6.7年経ってからで、ストーンズはほぼ「完コピ」だと知った。ストーンズだけでなくキンクス、ヤードバーズ、ヴァン・モリソン・・と、60年代のブリティッシュ・ブル−ズ勢が盛んにスリム・ハーポのカヴァーをやっていた。それはなぜか?そこで「なぜスリム・ハーポはかくもたくさんカヴァーされたのか?」を少し考察してみたい。
まず曲のシンプルさだろう。つまりブルーズ初心者にもカヴァーしやすい単純明快さがハ−ポのブルーズにはある。しかし、誤解しないで欲しいが、シンプルだからと言って底が浅いわけではない。このシンプルさはハ−ポが大きな影響を受けたジミ−・リードから来ているものだが、ジミ−・リードよりポップな感触がする。サウンドも整理されているし、リズムも8ビートを導入するなど時代にも即応している。
歌詞はどうだろう。1曲目のタイトル曲"Raining In My Heart"は「オマエはと離ればなれになってから、オレの心はずっと雨や。オレはひとりぽっちや、だからベイビー戻ってきてくれへんか」という失恋と懇願の歌だが、歌詞は大した英語力がなくてもわかるこれまたシンプルなものだ。前述したハ−ポの最初の57年のヒット"I'M A KING BEE"は自分を王様蜂に、そして彼女を女王蜂に喩えて「オレは王様蜂や。オマエの巣のまわりをぶーんぶーん飛んでるやけど、なぁオマエの巣の中に入れてくれへんかなぁ」という求愛の歌だ。「オマエの巣の中に入れてくれへんかなぁ」というのはセクシャルな意味だと誰でもわかりますね。この辺りがストーンズのような不良青少年にぐっと来たわけですね。私もぐっと来ました。そして、米英の女の子たちはこれで「きゃ〜っ!」と喜ぶわけです。ところが日本でこういう歌を歌うと、日本の女の子たちは「何この歌?」と言ってずずっ〜とひいてしまうんですね。まあ、私がステージでこういう性的な歌詞の説明をするだけでも何か「しーん」としたムードに包まれるくらいですから・・。21世紀になっているんですから、なんとか笑い飛ばしてもらえないでしょうか?性文化に関しては意識は低くて幼稚です・・この孤島日本は。でも、なぜか先進国の中でエイズの普及率は異常に高いんですよ、この国。
話を戻すと、こういうわかりやすい「面白いシンプルな歌詞が覚えやすいシンプルなメロディで歌われている」というのがまずスリム・ハ−ポをポピュラーにした理由だろう。1曲目のタイトル曲もそうだが、彼の曲は鼻歌で口ずさめる。ハーポの歌い方はB.B.キングのように朗々と歌い上げるわけではなく、またウルフやマディのようなハード・シンギングでもなく、「牧歌的で実にユルい」ものだ。そう、聴いている方もついつい歌いたくなる感じなのだ。また、途中で入るハーモニカのソロもテクニック的に難しい感じはなく、歌と同じでユル〜い。まあ、ルイジアナでもニューオリンズのような都会ではなく、国道筋の小さなのんびりした町の夕暮れのムードだ。たぶん、そういう小さな町の小さな家でベランダのロッキング・チェアに腰を下ろしてビールなんか飲んで聴いたら最高の音楽だと思う。私は東京の片隅の小さな町で狭いベランダに椅子を出してビールを飲みながらこのハ−ポを聴いていますが、それでもごきげんですから・・・はい。
そして、前述したようにリズムに関してはダンサブルで、そのグルーヴはなかなか下半身にくるものがある。ドラムのボテッとしたスネアーの音などは田舎臭い感じがするが、ビート自体は太く、きっちりしており、鋭いところもある。
サウンド的にはエコーのかかり具合も気持ちよく、音圧もあり、ひとつひとつの音も鮮明なこのエクセロ・レコードの録音は私の大好きなサウンドのひとつだ。その「サウンドの良さ」も当然売れた理由のひとつだろう。
「面白いシンプルな歌詞がシンプルで覚えやすいメロディで歌われている」、「牧歌的で実にユルい歌唱とハープ」、「リズムや音の作りがすべてとてもシンプル」、「ダンサブル」、「サウンドの良さ」など、こういう要素がミックスされたポピュラーな味のあるスリム・ハ−ポのブルーズは、多くのミュージシャンによってずっと歌い継がれてきた。このアルバムは南部の豊かな風景を思い出させ、南部の普通のアフロ・アメリカンたちの心情を歌った哀愁と暖かみのある、まさに名盤中の名盤だ。すべてがシンプルだが、アルバム・ジャケットもまたわかりやすい実にシンプルな、素晴らしいデザインだ。部屋に飾ってもおしゃれな一枚だ。
しかし、長年このアルバムを聴いているが、いまだに理解できない音がひとつ。5曲目の"Snoopin' Around"(かぎ回るとかうろつき回るという意味)に入っている日本の「木魚」のような“パッカ、ポッコ、パッカ、ポッコ”という不思議な音はいったい何を意味しているのだろう・・・。ラバの歩く音?
かき氷のように涼しいブルーズとは言いませんが、ブルーズの中ではかなり納涼度の高いこのハ−ポのブルーズ。多くの暑い夏をこの牧歌的で、ユル〜いハ−ポのブルーズで乗り切ってください。これでも暑苦しいと感じる方は高木ブーさんのハワイアンでもどうぞ。

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